『新しいチャレンジには今を知ることが大事。そのための第一歩が人流解析でした。』

黒壁スクエア(株式会社黒壁)

専門店

滋賀県長浜市

受け継がれた「人流解析」の文化を進化させ最適解を見つけ出す。すべてはサービス向上のために。

 1899年、滋賀県長浜市の市街地にできた銀行。その特徴的な外観から「黒壁銀行」と地元民に呼ばれ親しまれた。しかしその後、近隣に大きな商業施設が開発されると商店街から人足が途切れ始める。このままでは愛すべき建造物「黒壁」だけでなく商店街までもが廃れてしまうと立ち上がった有志らは、当時ヨーロッパの観光地で人気だったガラス細工に目を付け、紆余曲折ありながらも皆で力を合わせ地域を復興するに至る。今も「黒壁スクエア」には当時の意思を同じくする20を超える店舗が集まり、新しい時代の黒壁を脈々と築いている。今回、その黒壁イズムを長年支えてきた笹原さまに話を聞いた。
ー 地域創生のベストプラクティスとも評される黒壁の復興は、どのような道のりだったのでしょうか?
 「黒壁」を保存しようとなった際には多額の出資が集まりました。本当に地域に愛されていたんですね。でも実はその時点で、何をするのかまったく決まってなかったんです。けれど何か経済活動を行わないことには何も始まらない。そこでまずは人流の調査をしようとなったんです。
 それが1988年の4月のことでした。日曜日に1時間くらい商店街に立って人通りを観測したんです。

 で、結果は人が4人に犬1匹。

ー ひと家族分じゃないですか!
 いや、ほんとに衝撃的な結果で今でも語り継がれているくらいです。当然これはえらいこっちゃとなり、そこから貝殻をコレクションしている地元の方にお願いして博物館を始めようだとか、反物の展示場はどうだろうとか、いろいろな話があがったんです。でも、地元に元からある商売を圧迫してはいけないという理由もあって、なかなか決まらない日々が続いたんです。

 悶々と悩みながらもメンバーで意見を交わし、調査を続けるそんな最中、北海道の小樽や広島でガラスが観光産業に使われているという話を耳にしたんですね。早速現地へと視察に向かい、戻ってからも独自に調査を続け、その意欲は国内に留まらず、とうとうヨーロッパにまで赴き、そこでガラス細工と観光地の成功を実際に目にしたんです。そして「これならいける!」と確信したんです。
ー なるほど。異国情緒が漂うのは、建物が過去に教会だったことに由来するのかと思っていましたが、あくまで観光都市として考え抜いた結果だと。
 はい。といってもガラスのプロを抱えていたわけではないので、外部の協力を得ながら作ったり、海外に買い付けにいったりしました。そして平成元年にオープンすることができたんです。
 ガラス館とスタジオ、そして今はオルゴール館になっているフランス料理のレストランですね。

 当時はインターネットもなくて、集客面で不安がありました。でも、7月に入り夏休み、そして秋の行楽シーズンへと時間が経つにつれ多くの人が訪れてくれるようになりました。ありがたいことに、ご利用いただいたお客さまの口コミから徐々に広がっていったんです。
 そして同年の年明けには町中の古い建物を使って、サービスを拡大。賛同してくださる商店街の方も増えて、最大30號館にまで広がりました。実は「黒壁」は建物の色を指しているわけではなく、古いものをリノベーションした活動のことを指しているんです。
ー 地元愛から走り出し、苦難を乗り越え、一気に成功まで駆け抜けられたわけですが、昨今の新型コロナウイルス感染症は、長い歴史の中でも特異だったかと思います。
 この2、3年。そうですね、今年の3月くらいまでは本当に厳しくて。やはり観光地ですからお客さまは激減しました。直前の集計では年間200万人もの方に訪れていただいていたんですが、この2年間は半分の100万人。当然売り上げも。
 もちろん私たちだけじゃなく、エリア一体が厳しい状況でした。黒壁としても2店舗閉めざるを得なくなり、商店街も一気に寂しくなってしまった。
ー そうした状況下で、どのような対策をとられたのでしょうか
 黒壁としては攻めたかったんです。でもどうしても出ていくものの方が多く、守りの対策をせざるを得なかった。少ないお客さまでも売上が上がるように工夫したり、家賃の交渉だとか。なんとか切り抜けようと必死でした。
ー 苦しい時代を抜けて、デジタルマーケティングや来店分析を検討したきっかけはどこにあるのでしょうか。
 コロナウイルス感染症が広がる前から、オプテックスのOMNICITYチームとは面識があり、攻めたプランも考えていたんです。ビーコンの機能を活かしたロボットを商店街に走らそう!とか。ただ直後にコロナが来て、具体的なアクションを保留にしていたんです。
 ただ、この2年間ですごく感じたこともあるんです。それは、感染者が増えたらお客さまは減る。でも国の施策などがあるとバーンと増えたりする。つまり、コロナさえなくなれば、お客さまは黒壁のことを覚えていてくださって、必ず戻って来てくださるということです。

 「その時」がいつになるのかはまだわかりませんが、お客さまをちゃんとお迎えする準備を今から始めておくことが大切なんです。もちろん、しっかりしたサービスを提供するのは当たり前で、そのサービスの質を高めるためにも人流解析が必須なんです。
ー 「人4人と犬1匹」から続く伝統ですね!
 たしかに笑 そうかもしれません。今もお客さまの人数をカウントする機械はつけているんですが、毎日の集計は手作業で行っているんです。そこに購買者数を加えて再集計するのですが非常に面倒で、正直なところスタッフさんには評判がよくなかった。そんなタイミングで提案いただいたデジタルマーケティングの手法や、人流カウントの仕組みは、本当にありがたかったんです。
ー デジタルマーケティングと一言でいっても幅広いと思います。まず人流の解析に重きを置き、OMNICITY®とStore360を導入されたのはなぜでしょう
 まずは購買率の実感として、低いのか高いのかを正確に把握することが重要です。やみくもに施策をおこなっても、何が効いたかが分からない。例えば人はすごく増えているのに、売り上げが減ることもある。そういった実態や要因を把握することで現場に活かしていきたいんです。
 実際に使用してみると、視覚的に一目で把握できるのがすごくいいですね。さらにこれまで分析しづらかった天気や、店舗間におけるカニバリゼーションの発生なども把握することができる。日々の集計作業がなくなったので、スタッフはよりサービス向上に時間をさけるようになりました。今のところいい事尽くしです。
ー お話をお聞きしていて、黒壁が地元からもすごく愛されていることに気付きました。今後の発展や展望についてお聞かせいただけますか
 今日もスタッフたちとミーティングしていたのですが、やはり、一店舗一店舗がそれぞれ一人ひとりのセンスだとか知恵に頼りすぎていることがありました。それがコロナになって、より浮彫りになったという印象です。
 例えばお客さまの求めている商品に行き着けていないとか、気に入ったものを買ってくださっているけど、他の店舗でも同じようなものをラインアップしていたとか。そういうことが分かってきました。これはスタッフのセンスの問題じゃなく、会社の方針を決めきれずに取りこぼしていた。ということです。
 限られた資源で、いいものを仕入れて、いいものを作る。これにはスタッフたちの優れたセンスが必須です。そこにデータを基にした会社の判断基準を掛け合わせていきたいんです。
 人流解析を行うことで、黒壁の最適解を見つけていく。ということです。
 今後は直営の8店舗に導入して、データを基に連携していきます。効果が出てきたら、成功体験を共有して黒壁だけでなく、商店街全体と連携していくことも考えています。

 今回の取材で印象深かったのは、仕入れへの絶対的なこだわりでした。「わざわざ黒壁に来てくださるお客さまに、他地域と似たようなものを提供してもしょうがない。」徹底した顧客視点のサービスで、今後も黒壁は進化し続けていくことでしょう。
ー インタビュー日:2022.7.6

  • 黒壁スクエア(株式会社黒壁)
  • 〒526-0059 滋賀県長浜市元浜町12−38
  • 国内ガラス工芸品の展示販売など

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